2018年型 JA44 スーパーカブ110
フロントフォークの平行出し
作業レポート
概要と得られる効果
テレスコピック式フロントフォークは、
一見正常に組み付けられていても、
各部の歪みや寸法誤差によって、
対の間の平行が出ていない場合があります
これを解消し、平行を出してやることで、
フロントフォークの初期作動性が少しだけ設計時の想定に近づき、
わずかな負荷の変化にも柔軟に追従するようになります
具体的には、
・うねりが連続する道での乗り心地がよくなる
・小さなギャップを踏んだ場合の突き上げが少なくなる
・ スロットルを大きく操作した場合の安定性が増す
・コーナー進入および脱出時の挙動がより安定する
などの効果が見込めます
が、廉価なテレスコピックフォークの宿命として、
カブ110のそれは、平行出しに必要な調整機構を備えていません
そこで、フォークアウターチューブとホイールハブの間に、
社外品のシムを挿入して左右アクスルシャフト支持部の間隔を調整し、
平行を出そうというのが、今回の作業の趣旨です
参考資料
本田技研工業
スーパーカブ110(JA44) / 110 プロ(JA42) サービスマニュアル
お約束
作業するにあたって、
サービスマニュアルとトルクレンチは必須
サ ー ビ ス マ ニ ュ ア ル と ト ル ク レ ン チ は 必 須
サービスマニュアルは原本を汚さないよう、
必要箇所のコピーを取って、メモなどはコピー側に書き込むんだ
レンチに関しては使い方もきちんと予習すること
タイプによって作法が異なるので注意
いきなり何?・・・って思った人は、とりあえずこれでも読んでくれ
メモ・なぜTriKaiはサービスマニュアル教徒&トルクレンチ狂なのか ~あるいは安易なDIYに対する警鐘と自戒~
マニュアル未読での作業や、
「手ルクレンチ」なんていう笑えないネタはやめよう、本当に
注意事項
1
上のようなことを書いておいてなんですが、
今回はサービスマニュアルには手順が存在しない、
イレギュラーな部品の組み付けをします
作業の実施とその後の運行は、実施者各々の責任にて、
十分に熟考したうえでおこなってください
2
今回は省いていますが、
フロントホイールハブ各部へのグリス補給を同時におこなう場合は、
ブレーキドラム&シューへグリスを付着させないよう、
また組み立て時にスピードメーターギアを壊さないように注意してください
3
ホンダのサービスマニュアルやパーツリストといった知的財産類は、
ヤマハのそれと違って一般ユーザーへの公開・販売が考慮されておらず、
基本的に受注生産なうえ、高価な傾向があります
例としてスーパーカブ110・110プロ(JA44・42)対応マニュアルの場合、
2018年3月の時点で、トリシティ125(SE82)用の8,000円前後に対して、
3倍以上の額でした
細かな整備調整に必須のツールではあるのですが、
正直、個人で購入するのはなかなか勇気がいる代物だと思います
もし状況が許すならば、付き合いの長いバイク屋に頼んで閲覧させてもらう、
仲間内で共同購入する、などの手段を取るのもいいでしょう
バイク屋にとってはれっきとした商売道具なので、断られても怒らないこと
なお、ウェブ上で訊ねるのは、
サービスマニュアル自体の誤植が疑わしいときなど、
どうしても他に手段が無い場合を除いておすすめできません
引用と無断転載の境目が曖昧だという事情もありますが、
それ以前に情報の信頼性が乏しい上に、きちんと裏を取れば取ったで、
結局はマニュアルを読むのと同等の時間的・金銭的コストがかかるからです
用意した物
シムリング
材質SUS304
内径12mm、外径22mm
厚さ0.3mm × 3
厚さ0.1mm × 5
岩田製作所製
サービスマニュアル
20~100N・m級9.5sqプレセット型トルクレンチハンドル
9.5sqロングスピンナーハンドル
9.5sq19mmソケットレンチ
14mmメガネレンチ
シックネスゲージ
適当なシリコングリス
ウエス数枚
パンタジャッキ または リアキャリアに乗せられる重石
シムリングに関しては、
厚さ0.05mm以下のものも数枚用意しておくと、
より厳密な調整ができます
シムの材質について
SUS304
TriKaiが蛇蝎のごとく嫌う、純正装着品以外のステンレス部品です
岩田製作所の鋼製シムリングには、
普通鋼(SPCC)製とステンレス(SUS304)製の2種類がラインナップされています
今回シムを組み付けるフロントハブの周辺は、
雨水にさらされる上に、シムへの恒常的な塗油が困難
またシムという部品の機能上、塗装やめっきによる防錆も不可能です
裸のSPCCではすぐに腐食してしまいます
今回は裸のままでも高い耐食性を持つステンレスがベストと判断し、
そのうえでアクスルシャフトへの電食対策をおこなうという方針を取りました
表面積比から考えて、そこまで気にする必要ないんじゃないかって?
そこを気にするのが神経質なTriKaiなんですよ・・・
作業手順
0
すべての作業の前に、
フロントアクスル周辺の異物や汚れを落とす
加えて、ブレーキをかけた状態で、
フロントフォークを軽くストロークさせ、
感覚を確かめておく
1
メインスタンドを立て、フロントアクスルナットを緩める
フランジ座面が左アウターチューブから十分離れるまで緩めること
2
フロントアクスルシャフトのヘッドフランジ座面が、
右アウターチューブにきちんと接触していることを確認する
フランジがストッパーとなるため、
後の作業で生じる隙間が、
ホイールハブ左側(車体正面から向かって右)へと集中する
3
メインスタンドを外し、フロントフォークを大きくストロークさせる
この際、フロントブレーキを握ってはならない
伸び縮みを計10セットほど、特に縮み動作を深くするよう意識しておこなう
ハンドルは前後に揺さぶるよりも、
上下に動かしたほうが、フォークに力を加えやすい
タイヤを塀などに直角に当てて、ハンドルを押し込むという手もある
4
静かにメインスタンドを立て、ホイールハブ左側、
左アウターチューブとブレーキパネルの間にできる隙間の幅を、
シックネスゲージで測定する
この画像では、0.04mm+0.06mmの組み合わせで、
0.1mmの板厚を作っている
今回は幅0.15mm以上、0.2mm未満という測定結果を得た
5
パンタジャッキをクランクケース下に噛ませるか、
リアキャリアに重石を乗せるかして、
リアタイヤを接地させる形でフロントホイールを持ち上げる
ジャッキの外れや重石の転落、
フロント周りの落下には十分注意すること
6
フロントアクスルナットを外し、アクスルシャフトを引き抜く
当然、ホイールが落ちるので注意する
ホイールを完全に取り外す場合は、
事前にブレーキケーブルとスピードメーターケーブルを外しておく
完全には取り外さない場合、ケーブルを外さずにシャフトを抜き、
アウターチューブにタイヤを預ける形で立てかけておけばいい
7
絶縁と防錆のため、
アクスルシャフトにシリコングリスを薄く塗布する
潤滑用ではないので塗り過ぎは厳禁
フランジ座面とネジ山部への塗布も絶対にしてはいけない
8
ホイールハブ右側(車体正面から向かって左)、
ディスタンスカラーと右アウターチューブの間にシムリングを挟み込み、
アクスルシャフトを差し込んで、フロント周りを仮組みする
ブレーキケーブル、スピードメーターケーブルを外していた場合は、
この時点で取り付ける
アクスルナットはシャフトへ取り付けるが、まだ締め込まない
今回は0.1mmのシムリング2枚を使用した
右アウターチューブにアクスルシャフトの先を差し込み、
先端をわずかに突き出させたら、そこにひっかけておく
ホイールの取り付けにはコツが必要
ディスタンスカラーが脱落しやすいうえにシール内側がグリスまみれなので、
万一の保護のためにウエスを下に敷いておくといい
あらかじめ左アウターチューブを反時計回り、
右アウターチューブを時計回りに回転させ、
両チューブのアクスル支持部を「ハの字」にしておくとスムーズか?
9
アクスルナットを以下の手順で締め付ける
ホイールを進行方向に回転させ、ブレーキをかけて止めたら、
そのままブレーキをかけっぱなしにした状態で、
アクスルナットを規定トルクで締め込む
これでブレーキシューの作動中心と、
ブレーキパネルの基準位置が出せる
アクスルシャフトが共回りする場合は、
メガネレンチをかけ、ヒザから下で押さえて回り止めとする
10
ジャッキもしくは重石を外し、
フロントホイールを接地させる
11
メインスタンドを外し、
フロントブレーキの動作に異常が無いかを確認する
12
最後にフロントブレーキをかけた状態で、
フロントフォークを軽くストロークさせ、
スムーズに動作するか確認する
1. 縮めた場合も伸ばした場合も、リバウンドして落ち着いた後の位置が同じ
2. そこからサイドスタンドを立てた際、自然にフォークが伸びる
3. さらに車体を起こした際、自然にフォークが縮む
この3つの条件を満たしていればOK
作業後のメンテナンス
ときどき、アクスルシャフトおよびシムリングに、
錆、その他の異常が発生していないかどうか確認してください
2018年4月1日
Ver.1作成