トリシティ フロントフォーク平行出し 作業レポート Ver.0.2 暫定版

2014年式(2015年度型) MW125 トリシティ
フロントフォークの平行出し
作業レポート

トリシティのフロントフォークは、
あまり厳密に調整できる構造にはなっていません
当ページの手法も、調整というよりは、
各部品のはめ合い公差を逆手にとって、
だいたいの位置を出してから組み付けているだけです

一方でサービスマニュアルには、
フォーク組み立て時の指示のひとつとして、
フロントフォークボルトを締め付ける前に、
フロントフォークを数回伸縮させる。
という一文があります
これを掘り下げたのが、当ページの手法だとお考えください



参考資料

ヤマハ発動機 SCOOTER MW125 サービスマニュアル
(2014年6月発行版 適合車種:2CM9 部品番号:QQS-CLT-000-2CM)

より引用
当ページ内に斜体として明示



概要と得られる効果

フロントフォーク、
特にテレスコピック式やボトムリンク式のものは、
一見正常に組み付けられていても、
各部の歪みや寸法誤差によって、
対の間の平行が出ていない場合があります

これを解消し、平行を出してやることで、
フロントフォークの作動性が少しだけ設計時の想定に近づき、
わずかな負荷の変化にも柔軟に追従するようになります

具体的には、

・うねりが連続する道での乗り心地がよくなる
・小さなギャップを踏んだ場合の突き上げが少なくなる
・ スロットルを大きく操作した場合の安定性が増す
・コーナー進入および脱出時の挙動がより安定する

などの効果が見込めます

工場出荷状態でそれなりの精度が出ていた個体、
あるいは販売店が平行出しを実施していた個体の場合、
当然ながら、体感できる効果はありません
これはこれで喜ばしいことです



注意事項

サービスマニュアルおよびトルクレンチは、
DIY、ご自身で作業を実行するのであれば、
必ず用意・使用してください

当ページは上記を前提に構成したため、
各ボルトの指定締め付けトルク値は明記していません

理由として関連投稿へのリンク、
および結論だけ列挙します

メモ・なぜTriKaiはサービスマニュアル教徒&トルクレンチ狂なのか ~あるいは安易なDIYに対する警鐘と自戒~
http://trikai.blogspot.jp/2017/10/trikaidiy.html

熟練度の問題
少なくともサービスマニュアル同程度の知識をお持ちで、
かつトルクレンチ同程度の精度で作業を実施できる方にのみ、
DIYを実行していただきたいからです

責任の問題
もし作業実施者が何かミスを犯したとしても、
あるいはユーザーが何らかの重大な結果を招いたとしても、
TriKaiは一切の責任を引き受けることができません
ゆえに、締め過ぎと締め不足、
それに伴うトラブルの発生リスクは、
可能な限り低減しておきたいからです

サービスマニュアルの指示
サービスマニュアルには、
アウターチューブを交換する必要がある場合以外は、
フロントフォークのボルトを緩めないこと。
という指示があり、
これを各々の責任にて破ることになります
再組み付けは確実におこなう必要があります

締め付けトルクの微調整
工場出荷状態の各ボルト・ナットは、
使用されている自動工具の特性上、
やや強めのトルクで締め付けられている傾向があります
これを手動工具基準のトルクへと調整したいからです

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SMもレンチも無いが平行出しは実施したいという場合は、
DIYはあきらめて、販売店へと相談してみてください
「軽く平行出したいんで、ちょっとボルト緩めて揉んでもらえませんか?」
と頼めば、了解してくれる店はそれなりにあるはずです
一方で前述のとおり、厳密に調整できる構造ではないため、
作業を断られる場合もあると思います

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作業を実施するタイミングについて
納車直後やオーバーホール直後など、各部の擦り合わせ、
特にスライドメタルの当たりがまだ出ていない状態で実施するのが効果的です
すでに摩耗が進んでしまった状態で作業を実施すると、
最悪の場合、オイル漏れなどを誘発することがあります


TriKai保有のトリシティ125は、総行6,000km付近で、
一度フロントフォークからのオイル漏れを起こしていますが、
このときはまだ、平行出しの作業は実施していませんでした

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ヤマハ発動機、その他関係各所から何らかのコンタクトがあった場合、
あるいはページの品質に問題があるとTriKaiが判断した場合は、
公開を予告なく中止します



必要な工具

・10mm ソケットレンチ
・14mm ソケットレンチ

・測定可能範囲:5~25Nm帯のトルクレンチハンドル

・測定可能範囲:20~100Nm帯のトルクレンチハンドル

・緩め作業に適する任意のソケットレンチハンドル
 (ロングタイプのスピンナーハンドルを推奨)

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トルクレンチはなるべく、
測定可能範囲の中央付近で使用します
今回は指定トルク値が離れすぎているため、
1本で2つの値をカバーしようとするのはやめておきましょう

どちらも高い精度が求められる部位ではないため、
それぞれ5,000~6,000円前後の安物でも大丈夫です

小さいほうのトルクレンチに関しては、
余裕があれば東日製作所など、
一流メーカーのものを買っておくと、
後々エンジン周りのメンテナンスにも使えます



おおまかな流れ



ロアーフロントフォークボルトへアクセスするため、
マッドガードを浮かせる



フロントフォークボルト(アウターチューブ締結ボルト)を緩め、
フロントフォークを大きくストロークさせる



フロントフォークボルトを、
ロアー(下)→アッパー(上)の順で締め付ける
 


マッドガードを元に戻す



作業内容

1.
固く平坦な場所で、メインスタンドを立てます

2.
10mmソケットを使用し、
マッドガード固定ボルトを計4本、途中まで緩めます


マッドガードを傾けることで、
ロアーフロントフォークボルトへと、
ソケットレンチを被せることができます

3.
14mmソケットを使用し、
フロントフォークボルト、計4本を少し緩めます
それぞれ2回転も戻せば十分です
高トルクで締まっているのでご注意を

4.
一度メインスタンドを外します

5.
フロントフォークを可能な限り大きくストロークさせます
トリシティの場合、フロントブレーキを使うかどうかは任意です
縮み側だけでなく、伸び側にも目一杯動かしてください
ハンドルを前後・上下に思いっきり揺さぶる、
シート前端に座って尻でバシバシと叩く、
フロアに片足を乗せて体重をぐいぐいかける・・・
およそ10セット程度動かしましょう


ストローク時にブレーキを使ってよいかどうかは、
ブレーキとアクスル支持部の形式によって変わってきます

6.
静かにメインスタンドを立てます

7.
フロントフォークボルトを、
下側(ロアー)→上側(アッパー)の順で締め付けます

この写真で言うと、
A→B→1→2、あるいは1→A→2→Bなど、
Bより先にA、2よりも先に1を締め付けてください

8.
マッドガード固定ボルトを締め付けます

9.
メインスタンドを外し、
フォークがスムーズにストロークするか確認します

10.
最後にもう一度メインスタンドを立て、
各ボルトがきちんと締まっているかどうか、
手で触れて確認します


ボルト緩みのチェックは、定期的におこなってください
プレセット型トルクレンチでの増し締めは、
オーバートルクとなるのでおこなわないでください



回転角締め付け法について

サービスマニュアルやトルクレンチに頼らず、
同等の組み付け精度を実現できる手段として、
「弾性域回転角締め付け法」の応用があります

大まかに言うと、
正常に組み付けがおこなわれている状態で、
ボルト・ナットと取り付け先に、
位置決め用のマークをペイントしておき、
再組み付けの際はマーク同士が合うように締め付ける、
という方法です

マークを付けた時点で、
正常なトルク値で締め付けられていたことが絶対条件ですが、
組み付け精度と作業効率に関しては、
トルクレンチを使うのと同等かそれ以上のものが望めます

応急整備などへの応用も効くため、
トルクレンチの取り扱いにある程度慣れ、
「締め付けトルクによる軸力の管理」についておおまかに理解した方は
こちらを練習してみてもよいと思います



理屈で考えるフォークの平行出し

その具体的手順は、

1.
フォークアッパーブラケット(トップブリッジ)と、
ロアーブラケット(アンダーブリッジ)の、位置歪みを解消する
(車体を輪軸に平行な視線で見た場合のフォーク平行を出す)

2.
アクスルシャフトの支持間隔を適正に調整する
(車体を輪軸に直角な視線で見た場合のフォーク平行を出す)

という2つの要素で成り立ちます

トリシティを含めたアッパーブラケットが無い車種については、
1の手順を省略して、2の手順のみを実行します

一般的なバイクならば左右フォークアンダーチューブ、
アクスル支持部の間隔を何らかの手段で調整するところ、
トリシティの場合は前後フォークの組み付けかたを調整し、
平行に近づけてやるわけです



※更新履歴
2017年10月15日
文章を一部入れ替え・追記、Ver0.1.1
2017年10月17日
参考資料・引用元表記を追加、Ver0.1.2
2017年10月20日
文章を一部入れ替え・誤字修正、Ver.0.1.3
写真を追加、Ver.0.2



ブログ投稿
http://trikai.blogspot.jp/2017/10/blog-post_48.html