2017/09/29

メモ・なぜTriKaiはトリシティのものを含むヘッドライトのLED化に対してアレルギーを持っているのか

メールにてご質問をいただいだので、
回答も兼ねてメモしておこうと思います

一部、毒の強い表現を含みますが、ご容赦ください



まずは前置き

移動用機器のライト・ランプ類には、
機能で大きく分類して3つの種類があります

「照らすための灯火」

「知らせるための灯火」

「飾るための灯火」

です

例えば、ウィンカーやテールランプ、
ブレーキランプは「知らせるための灯火」が主機能
ポジションランプは「知らせるための灯火」と、
「飾るための灯火」を兼ねています

ヘッドライトの主機能は言うまでもなく「照らすための灯火」なのですが、
副次的に自車の存在をアピールする「知らせるための灯火」としての機能も持っています
さらに乗り手が自分好みの色温度へとカスタムした場合などは、
「飾るための灯火」としても機能する、というわけです



前照灯の保安基準と、照射光のグレア成分

話をヘッドライトの主機能へと戻し、改めて分析すると、
当然ながら、暗闇の中で進路や障害物を、
きちんと確認できることが第一の機能的要件となります

が、ここで忘れられがちなのが、
「照らすための灯火」としての他の要件、
そのうちのひとつ、
特にロービーム照射の際、照らしてはいけない部分・領域は照らさないこと
もっと具体的に言うと、
先行車や対向車のドライバー、あるいは歩行者を幻惑しないこと
なんです

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国土交通省
道路運送車両の保安基準(H29.06.22. 現在)
http://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_fr7_000007.html
第32条
5 すれ違い用前照灯は、夜間に自動車の前方にある交通上の障害物を確認でき、かつ、その照射光線が他の交通を妨げないものとして、灯光の色、明るさ等に関し告示で定める基準に適合するものでなければならない。

※「すれ違い用前照灯」=ロービーム
ハイビームは「走行用前照灯」と表現されます

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独立行政法人 自動車技術総合機構
https://www.naltec.go.jp/
審査事務規程
https://www.naltec.go.jp/publication/regulation/shinsajimukitei.html
新規検査及び予備検査(指定自動車等以外の自動車)・継続検査及び構造等変更検査等(使用の過程にある自動車)
7-63、8-63 すれ違い用前照灯
7-63-3 取付要件(視認等による審査)
⑩ すれ違い用前照灯の直射光又は反射光は、当該すれ違い用前照灯を備える自動車及び他の自動車の運転操作を妨げるものでないこと。


※いわゆる車検についての規定ですが、
参考として引用しました

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しかし現実の公道上には、ロービーム照射中にもかかわらず、
ハイビームと見紛うばかりの光を、
盛大に漏らしながら走っている車両がそれなりにいます

ウィキペディア
グレア(glare、眩輝『げんき』、眩惑『げんわく』)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%AC%E3%82%A2

眩しさの原因は主に2つ

ひとつは、光源の特性に対し、
リフレクターおよびレンズの形状が適合していないこと

ハロゲンバルブ用のハウジングに、
発光特性が異なるHIDバーナーやLEDバルブを無理やり押し込めると、
放たれる光線が滅茶苦茶になってしまい、
非常に眩しく見えるというわけです

「じゃあ、ハロゲンバルブの形状と発光特性を真似たLEDバルブならOKだね」
・・・って、思いましたか?
実は、そこが落とし穴なんです

もうひとつの原因は、
リフレクターおよびレンズの設計時想定輝度に対し、
実際の光源の輝度が高すぎること
端的に言って、バルブが明るすぎるんです

リフレクター式のバルブハウジングは、
構造上、多少のグレアの発生がどうしても避けられません
当然ながら灯具メーカーは、適合するバルブの仕様に合わせ、
光に指向性を与えつつできる限りグレア成分を抑え、
他の交通を幻惑することが無いよう、ハウジングの設計をおこないます

しかし、ユーザーがメーカーの想定していなかった、
高輝度のバルブをDIYで導入してしまったら、どうなるでしょうか?

例えば、ロービーム1000lm・ハイビーム1500lm級の純正バルブを、
ロー・ハイともに3000lm級のLEDバルブに交換したら?
当然明るくはなりますが、
輝度が高いぶん、グレア成分も増えてしまいます
しかも構造に起因する仕様ですから、
いくら光軸調整をしても無駄です
軸をきちんと出しても・・・いやむしろ、
軸がきちんと出ているからこそ、それに纏わるグレアが眩しい

仮に登録車で車検をパスできるとすれば、
それは検査官のお情けによるものです
照射光のグレア成分に関しては数値的な基準が定められておらず、
「とにかく他の交通から見てロービームが極端に眩しくないこと」
・・・という、割とふわっとしたルールが運用されているので、
車検に通るケースも無いわけではないはずです
が、法規ぎりぎりのグレーゾーンにいるということは確か

何より、法規や迷惑云々以前に、
幻惑された車両のドライバーが操作を誤って、
こちらに突っ込んでくるような事態が起こった場合は・・・
目も当てられません

「じゃ、じゃあ輝度を純正同等に抑えたものならどう・・・?」
それは名案ですが・・・
現状、そんなラインナップが豊富にあると思いますか?

レンズとリフレクターの設計、そしてバルブの高い輝度
これらをそのままにグレア成分を低減しようとした場合、
バルブの設計を工夫するしかない、という結論に行きつきます
純正球の形状と配光を真似ただけの設計ではダメなんです



熱対策および湿気対策の問題

ハロゲンヘッドライト用のバルブハウジングは、
お世辞にも放熱性に優れているとは言えません

これはハロゲンバルブが一般白熱球と比較して高輝度・長寿命な所以、
フィラメントに使われているタングステンが昇華した際に、
これを発光時の高温を逆手に取る形で、
化学反応によってフィラメントに還元させるという動作原理に由来します
強力な放熱機構は不要、大抵の場合は自然空冷で十分なのです

その一方、高温となったバルブの表面に、
水滴が甚だしく付着すると破損する恐れがあることから、
防水性に関しては一定のレベルが確保されています

ウィキペディア
ハロゲンランプ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%AD%E3%82%B2%E3%83%B3%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%97

熱に弱い半導体、LED素子にとって、この動作環境は過酷です
いくら電力から光への変換効率が高いとはいえ、100%ではない以上、
高出力のLED素子からは、けっこうな熱が発生します
何かしらの冷却手段が必須です

そもそも冷却装置が無いものや、
あからさまに容量が小さいものは論外

巷に流通する安物LEDバルブにたまに存在するのが、
小型のファンを使ってハウジング内に外気を送り込む方式なのですが・・・
果たして、ハウジング内のエアフローはどうなっているのか・・・?

LED素子を脅かすものとしてはもうひとつ、
ハロゲンバルブ同様に、水分・湿気の存在があります
しかし外気導入式の場合、 湿気や雨への対策なんて、
施す余地が無いのでは・・・?
仮に、素子自体を防水設計したとして、
冷却性との両立は可能なんでしょうか・・・?



理想的なヘッドライト向けのハロゲンバルブ交換型LED灯とは

上述のまとめから、

1.純正のハロゲンバルブ形状および特性を単純に真似たものではないこと

2.特殊な形状で、かつ上方および側方へのグレア成分を、
極力低減できるよう、入念に設計されたものであること

3.ヘッドライトハウジングの防水性を損なわないこと

4..ヒートパイプ等の熱交換器と別体式の大型ヒートシンクを備えており、
素子に生じた熱を効果的にハウジング外へと放出できること

これらの要件を満たしていることが理想的です
さらに付け加えると、運転条件、特に温度によって、
素子の輝度が変化しないことも重要となります
色温度の選定、輝度の自重に関しては言わずもがなです

これらを満たさずにヘッドライト用を謳うLEDバルブは、
各所から反感を買うことを承知ではっきり申し上げると、
総合性能でハロゲンバルブには遠く及ばない、
無闇に明るく、無駄に高価な、ただのガラクタです

特に「ポン付け可能」をやたらと強調したり、
メリットだけを列挙しつつ、
デメリットには全く触れないような業者が叩き売っているものは、
十中八九ロクデナシと見て、まず間違いありません



理想的なLED化、もうひとつの解

一方、バルブだけを交換するのではなく、
レンズやリフレクターなどの配光機構まで含めて、
LEDに適したものに丸ごと交換してしまうことも、
理想的な手法として考えられます

LED灯ではなくHID灯の例ですが、
俳優の伊勢谷友介氏が、
ヤマハ発動機協力のもとでプロデュースなさったトリシティが、
この手法を採用しています

motorcycle factory【閃屋】
伊勢谷友介さんプロデュース YAMAHA トリシティ カスタム②
https://ameblo.jp/thespade13ds/entry-12193937654.html

いわゆるプロジェクタータイプの配光装置は指向性に優れており、
強い光束を実現すると同時に、グレア成分を大幅に抑え込むことができます

さらに純正のハウジングをステー代わりとしてそこに埋め込むことで、
容易な光軸調整を可能としているのも上手いポイントです

さすが、メーカーたるヤマハ発動機が企画に絡んでいることもあって、
ワンランク上のカスタムが施されていますね



LED化のメリットを考える

あんまりネガティブな部分ばかり書き殴っても建設的ではないので、
ここはひとつ、用途ごとにLEDが持つ可能性、
ポジティブな部分にも触れておきましょう

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1.ドレスアップ

白熱球をLEDへと換装する上で、おそらく1番メジャーな理由はこれでしょうか
全ては乗り手の好み次第ですが、詳しく語るまでもなく、
LED灯特有の力強い白色光や歯切れのよい点滅には、多くの愛好者がいます

・・・が、この人気の傾向が災いしてか、
TriKaiが好むハロゲン・クリアバルブ同等の色温度を採用した、
つまりは昼白色~淡黄色のヘッドライト用LEDバルブってほとんど無いんです
おまけに社外品だけではなく、純正装着品のLEDライトに関しても、です
晴天時と雨天時・霧発生時、それぞれの間で照射性能のバランスを取った場合、
クリアバルブ同等の色温度が最も全天候性に優れる・・・というのが、俺の持論です
ゆえに「少なくとも現状では」ヘッドライトをLED化する気が起こらず、
またLEDヘッドライトを純正装着した車種は敬遠してしまう、というわけです

逆に言えば、
電球色かつ納得がいく配光・冷却仕様のLEDバルブが発売された暁には、
2万円前後までなら一時的にでも導入してきちんとレビューしてみたいな
とも思っています

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2.性能ないし機能の向上・改善(LEDチューン)

同等性能の白熱球を遥かに凌ぐ省電力性はLEDの特徴ですが、
これを活用して、

・二輪車の灯火類の中でも、特に大出力のヘッドライトをLED化することで、
オルタネーターやバッテリーの負担を減らし、後輪出力や燃費の改善を狙う

・スクーターにおいて、テールランプ・ブレーキランプをLED化することで、
始動時にブレーキを引いた状態=ブレーキランプが点灯した状態でも、
スターターモーターがより確実に機能できるようにする

・ハザード機能付きのウィンカーをLED化することで、
エンジン停止時にハザードモードで点灯した際に、
バッテリーあがりのリスクを減らす

など、走行性能や各種機能の強化を図ることがあります
俗に「LEDチューン」と言われたりもするこれらの手法は、
適用車種の仕様や特性をきちんと踏まえておこなえば、
相応の結果が出る場合があります

TriKaiにとってはむしろ、こっちの効果が本命です
充電制御の仕様にもよりますが、一般に小排気量のバイクは、
全発電能力に占めるヘッドライト消費電力の割合が多いので、
トリシティ125でも、特に中回転域のトルクが、
わずかながら向上するのでは・・・と、目論んでいます
あとは実用環境下での寿命と、
他の電装品との相性が気になるところですね



結論を申し上げると、

・LEDへのアレルギーというよりは、
半端な製品と安易な改造の氾濫・横行に対して、
反感を抱いているという表現が正しい

・今後「照らすための灯火」としてLEDの熟成が進むはずなので、
やがてはアレルギーが緩和する日が来ると考えている

ということです
ご納得いただければ幸いです